ご隠居さんの徘徊キノコ日記・その]V

○瀬畑名誉会長の巻

キノコ採りは眼力が大事である。つくづくそう感じたのは、瀬畑名人について歩いたときのこと。

もう15年くらいまえになる。奥多摩ダム湖は小菅入口のあたりだった。季節は11月、そろそろ枯れ葉が舞いちるころ。

車から山肌をみていた瀬畑さん、ん、このへん、というなり、スタスタと踏みこむ。

あわてて後を追うと…
じっと目をすえ、山肌を睨むセバやん。左から右へ、上から下へと丹念になめわたしてゆく。

もしもキノコに足があるならば、イヤだジロジロみないで、と逃げだすにちがいない。

はたでみていると、小石と黒土と落葉しか目にはいらないんだが、瀬畑老師の眼力には見えるらしく、ホラあった。

ちょいと小粒だが、シモフリシメジ。黒っぽい笠が土や朽葉に溶けこんでいて、ふつうではとても見わけられない。

1時間ほどでスーパーのポリ袋いっぱいに集めたセバやん、ほくほく顔でいうには、これを炊き込み飯にすると旨いんだ。


ご隠居さんの徘徊キノコ日記・その]U

毒キノコ実験録はクサウラベニタケの巻。
臭裏紅茸はそのへんどこにでも生えるキノコ。鼻をちかづけると特有の臭いがするというが、実際にはわからない。食べてみると、これがけっこう旨い。なるほど中毒がおおいわけだ。笠の径は7、8センチから10センチくらい。ちょうど食べころのサイズで、つい採りたくなる。
あまり収穫がないとき、ややもすると、こいつウラベニホテイシメジじゃないかなあ、なんて希望的観測で籠にいれてしまう。

ホテイはウラベニより肉がしっかりしていて、笠や柄に絹状の模様が…とかなんとか。
しかしこれも個体により違うみたい。絶対の判断基準にはならない。

笠の裏、ヒダが紅色というが、たしかに真っ白ではないにせよ、これもあまり明確ではない。

柄が中空でつまむとペコペコすると書いてあるが、これもそうおもえばそうといった感じではっきりしない。

よーするに、すこしでも怪しければ食わない、と、これに尽きるのだが、それでも食してしまったらどうなるか。

それは次回のお楽しみ♪


「徘徊キノコ日記90」その]T
センボンイチメガサ・千本市女笠

「雨月物語」なぞにでてくる平安時代の女のかぶりものを「市女笠」といい、てっぺんがチョンと尖っている。
このキノコもちょうどその形。

10/4 ちかくの林のコナラの根元にあった。枯れ木に生えるというが、この木はまだ葉を茂らせていた。
100本くらいびっしりつまって束生。笠は濃い焦げ茶から黄土色。名のとおり中央がチョコンと盛りあがる。
ヒダは垂生で密。柄は中空、黄色の地に黒茶の縦筋あとこまかなササクレあり。ツバはもろい。
小型のキノコで、最大のものでも笠の径6センチ、柄は6センチ。

採るばあい、いちばんの問題はコレラタケとの見分けだ。この株は100本くらいもあったから判断がついたが、もっと小さい株ではどうか?図鑑にもまちがえやすいと書いてある。

食う。
ほとんど味のないキノコ。八百屋で売っている栽培エノキタケのような感じだ。わざわざ捜して採るほどのものでもないが、おり重なって生える様は壮観。わりあいに珍しいキノコだ。


「徘徊キノコ日記90」その]
シロオオハラタケ・白大原茸。
これも字のとおり、白くてでかくて原に生えるキノコ。

10/6 西武池袋線そば、東南かどの日当たりのよい空地に10本ほど生えていた。


大型のキノコで笠は径15センチ、柄は14センチほどあった。
笠は濡れても粘性なし。ぜんたいにあかるい白色で、まんなかにミルクコーヒー色の丸い斑がある。

これとまちがえやすい毒キノコに、1本食えばあの世ゆき確実の「ドクツルタケ・毒鶴茸」がある。
このふたつは色といい形といい、ほんとによく似ているが、見わけには決め手あり。それはヒダの色。
ドクツルならヒダは白いままだが、シロオオハラタケは生長にしたがいだんだん黒くなる。
若いうちはあかるいココア色→しだいにチョコレートの色→最後には黒にちかい茶色。これさえ覚えておけばまちがいなし!
食う。
どのキノコもそれぞれ特有の味やクセ、また匂いをもつが、このキノコはほんとに癖がない。
よってどの料理にも可。

「徘徊キノコ日記90」その\
チチタケ・乳茸

栃木あたりでは珍重されるキノコで、これが採れるとマツタケより喜ぶ人もいるそうだ。その半面、あんなものうどんのダシにしかならん、など馬鹿にするやつもいて、ひとそれぞれということか。

小手指には少ないキノコだ。10年以上さがして見つけたのは1本だけ。9月19日のことだった。

色かたち、傷つけると白い乳液がでるなど図鑑にあるとおり。まちがえやすい毒キノコはないはずだ。

5、6年まえの夏、取材で岩手と秋田の県境の小出川(おでがわ)に入った。車を停めて山越えにかかるとなんと、このチチタケがいくらでも生えている。
山道のそばに何本もみつかるということは、時間をとって山肌を歩いたらどれほど採れることか。
落ち葉掻きにつかう大きな竹籠でも持ってゆかねば間にあわないくらいの収穫があったとおもう。


「徘徊キノコ日記90」その[
ナラタケモドキ・楢茸もどき

9/18
ちかくの林でみつける。クヌギの枯れ木の根元に10本ばかり束生…つまり花たばのような形で生えていた。大きい株では20本以上になるものもある。

あまり珍しいキノコではなく、生えるときにはウジャウジャ湧いてくる。
ここ小手指の林では8月中から出はじめ、10月の声をきくとほぼ終わるようだ。
コナラやクヌギの木の根元やちかく、古い木の枝が埋まっていればその上にも発生する。
条件があえばそこらじゅうに顔を出すキノコで、所沢の航空公園に暮らすホームレスのみなさんはこのキノコで鍋パーティをひらいているとか。

若いナラタケモドキの笠は薄い黄褐色。まんなかに黒っぽいササクレがある。古くなると笠に黒い筋があらわれ、笠の縁も黒くなる。
ヒダは白かあわい黄色。
柄は中空でツバはない。長年雨ざらしになった杉板のような色と風合いだ。

本家のナラタケとの見分けかたはこのツバ。ツバがあり笠も柄もぜんたいに白っぽいのがナラタケで、ツバがなく赤黒いのがモドキである。

大きさは生長の段階によりどんどん変るのでいちがいにいえない。
笠の径が5〜6センチから10センチくらい、柄の長さは5〜6センチから、長いものっは15センチなんてのもあった。

よく似た毒キノコとして「コレラタケ」がある。まだそれらしいものを見たことはないが、生える場所が同じような所なので、たまに中毒する人間がいるらしい。

食う。
匂いや味にクセがなく、なんにでも使える。繊維質がおおくパサパサしているので油と相性がいい。いちど油味噌炒めにして保存をこころみたが、春まで保たなかった。
まだ経験したことはないが、あまり食べすぎると下痢するとか。


「徘徊キノコ日記90」そのY

ムラサキヤマドリ。 漢字では紫山鳥、イグチの仲間である。

10月1日、多摩湖のほとりの公園にあった。よく下刈りされた斜面に三本ならんで生えていた。ちかくには赤松と桜が植えてあり、家族づれが散歩するようなひらけた草地。

この公園はしょっちゅう雑草を刈っているそうで、何日か遅れると手にはいらぬところだった。

三本のうち大は笠の径11センチ、小は径9センチ。中身のつまったキノコで手にとるとずっしり重い。

笠の色はいろあせた茶紫とベージュのまだら模様。舐めてみるとやや粘りけがある。柄は濃紫の地をこまかい皺の網目がおおっている。下部がやや太い。笠も柄も肉はまっ白。

このキノコは関西あたりには多いらしい。シイやタブなどの照葉樹林を好むとか。小手指ふきんではその後見うけないから、寒い地方には少ないようだ。

ヌ調理いろいろ。 笠を刻み、胡麻油で炒め卵をからませる。味つけは塩のみ。キノコ図鑑では旨いキノコと書いてあるが、それほどのものには思えない。胡麻油の香りにかくされたか、キノコ独特の匂いやエグみは感じなかった。
柄は輪切りにして鶏肉、ピーマンと炒める。これも似たようなもの。

笠の管孔をとりのぞき、新巻鮭、茄子、タマネギといっしょに鍋で煮こむ。鍋の調味は、塩と醤油と酒粕でありました。
鮭から充分なダシが出るから、昆布その他はつかわず。これはなかなかのものだった。鮭のダシにこのキノコの風味がまじりあい、素人料理の水準をこえた(自画自賛か)味わいになった。

「キノコの目利き」山と渓谷社 という本をみたところ、関西では夏の盛りから出るそうだ。神社仏閣の、人通りの多い地べたにも遠慮なく顔をのぞかせるとか。

寒い地方には少ない、と書いたが、この本によると新潟でもたくさんみかけるとのこと。関西と新潟ではずいぶん風土がちがうはずだが?
しかしさすがに青森には出ないらしい。

この「キノコの目利き」という本、日本各地のキノコマニアが、その土地のキノコ情報を語っていて、面白い。


「徘徊キノコ日記90」そのX

「ノウタケ」漢字では脳茸と書く。
? 9月24日、狭山湖そばのラブホテルちかくで発見。竹やぶのなかに6、7本生えていた。
はじめて見つけたときには、とてもキノコとは思えず、あ、こんなところにケーキが落ちてる、などと驚いた。

さっそく地べたにすわりこみ、三脚たててフォト撮影。フジのリバーサルフィルム・ベルビア50で写す。このフィルムのlSO感度は50。絞りをF11から16あたりまで絞りこむと、昼の光でもシャッター速度は5秒ほどになる。手持ち撮影はむり。

4、5日あと、小手指の林にも見つけた。ラブホテルそばの裸地に何本(形からいって「本」とはいえないが)か生えていた。

ウスキモリノカサもそうだが、このキノコ、べつにラブホテルが好きというわけではない。地味の肥えた陽あたりのよいところに出るらしい。

「脳茸」の名のゆらいは、動物の脳にかたちが似ているからだという。ふつうのキノコのように笠と柄がわかれているのではなく、全体がひと塊になっている。
うすい焦げ茶の上品な色で菓子パンそっくりだ。割ってみると肉はまっ白くぽやぽやしている。ほのかに粉くさい匂いがする。

笠も柄もない形なので大きさは言いあらわしにくい。径10センチくらいの塊が地面から生えているとおもえばまちがいない。

ヌ食ってみると。悪る甘い、とでもいったらいいか、へんなしつこさが口に残る。鮭のジャッパ汁に入れたら、汁の塩辛さとノウタケのくどい甘みがぶつかりあい、もう勘弁してよという感じ。

そんなわけで、その後は見つけても採らないようにしていた。ところが2006年に沖田会長が採ってきたのを料理したら、へんな甘みもなくまずまずいける。生えていたところにより味がちがうのか、うまく調理したためなのか、そのあたりは不明であります。

 

「徘徊キノコ日記」そのW

前回が中黒森の笠だったので、今回はウスキモリノカサ・薄黄森の笠を紹介します。
これも読んで字のとおりのキノコだ。笠は鮮やかなレモン色。日陰に生えていてもよく目だつ。

小手指の林のなかに、ぽつんと一軒立つラブホテル。
ホテルの入り口と道をはさんだ向いの空地にこいつが生えているのを見つけ、三脚をたてて、あーでもないこーでもないとアングルを選んでいた。
すると「もしもし、なんですか」と声をかけるおじさんあり。このホテルの経営者だという。
浮気調査かなにかとおもったらしい。

笠の直径12センチ。縁は割れやすい。ヒダに薄い膜あり。離生。
柄は中空でツバあり。根元ややふくらむ。

v。
油炒めにして食す。温和といおうか無味というか、そんなに悪くない。ちょっと肉桂のにおいがする。


「徘徊キノコ日記」そのV マツオウジの巻´90

腰に携帯蚊取り線香さげて、あちこちふらつきまわる夏。
アッ松茸みつけ!とおもったが、よくみたらマツオウジだった。漢字では「松王子」と書くらしい。
小手指あたりでは8〜9月に出る。松の丸太や切り株に。
笠は大きなもので直径20センチ。黄味のつよい茶色。茎は白い。
見分けかたは、におい。鼻にちかづけると、つよい松ヤニ臭がする。

v。
松脂のにおいがプンときて、さほど旨いものではない。佃煮にでもするほか使いみちなし。
軽い毒があるという説も。どのみちあまり沢山食えるキノコではない。

 

「徘徊キノコ日記」そのU

春の林にウラベニガサ発見? (たぶんそうだ、そうにちがいない、そう決めた)

90/5/19 小手指の住まいのちかくの林(とにかく広い。なん十ヘクタール)で。 倒木に4本生えていた。
笠の直径3〜5Cm。柄の径は5〜7mm。中空。
ヒダは肉色で離生(えーつまり、ヒダのつけねが柄から離れておる、さような意味ですナ)
無臭で味は淡泊。とくに腹はこわさず。 本文へジャンプ

 

「徘徊キノコ日記」そのT

〔前説〕
1990年、渋谷の幡ヶ谷から都おち。所沢の小手指に引っ越した。
渋谷にくらべ森がおおく感激。1眼レフと三脚かつぎ、キノコ図鑑をデイパックにいれて歩きまわる。

1990*5*5たまたま三鷹へいった。玉川上水の土手を通ったとき、3、4本みつける。
笠の直径5〜6Cm。ヒダは白い。(ほんとにハルシメジだったかどうか、メクラ蛇にというやつで)ともかく油炒めにして食う。味は淡泊。とくに腹はこわさず。

 

 

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■竿鹿道人の独り言
「徘徊キノコ日記」

                    う〜ん。キノコ大好き☆竿鹿道人